第1話 出会い
木兎
木兎は困っていた。メインスキルのシールドフラッシュが様になってきたので、積極的に探索できるようになったのはいい。だが、それにともなって持ち物も急激に増えてしまったのだ。
「あれを預けて…これを重ねて…でもこれは持っておきたいし…ブツブツ」
古都ブルンネンシュティングの銀行で独り言をいいながら、ああでもないこうでもない、と思案に暮れている。俯いているせいでクレナの引き攣り顔が見えないのは不幸中の幸いか。いつも静かとはいえない銀行内だが、大きな図体の彼が縮こまっている姿はあまり見たいものではなく。笛を吹く少女や走り回る小さな白兎ならば、まだ心和むというものだ。
「あれとこれを入れ替えて…あぁもう、スペースが足りんっ」
彼は整理整頓が苦手だった。ポーションの類は6スタックくらいの状態で1マス使ってしまっている。そんなものがいくつもあったのでは入るものも入らないのは当然で。ついに、銀行整理という一大決心をした。あくまで、木兎にとっては、だが。木兎は急にキョロキョロと辺りを見回したかと思うと、一人の青年に声をかけた。
「…なぁ、そこのあんた、ちょっと頼みがあるんだ」
同じく探索を生業としているらしいその青年は、埃っぽい格好の中にも知性と清潔感が窺える。
「…なんだ」
振り返る動きと共に揺れる髪、すらりとした体躯。しかしステータスに「愛想」というものがあればきっとゼロだ。もともとなのだろう、睨むような目つき。さらにミスティックフォッグの微かな冷気が青年の雰囲気を怖いものへと煽っている。レベルの低いペットなどはすっかり怯えてしまっているくらいなのに、木兎はまったく感じないようだった。
「すまないが、これ持っててくれないか? …銀行整理をしたくて」
整理下手を自覚する木兎は照れ笑いを浮かべながら頼み事をした。飾りのない彼の笑顔は誰の警戒心も解いてしまうだろう。と、思われたが、目の前の青年は眉間にしわを深く刻んだ。
「…あんた、俺が持ち逃げするとか思わないのか」
疑問の言葉でも語尾を上げないのはこのウィザードの癖らしい。
「え、あんた、持ち逃げするのか?」
「するわけないだろう! …可能性の話をしてるんだ」
不名誉だとばかりに否定する青年に、自分で言ったのに何で怒るんだ、と不思議そうな木兎。その表情を見て何かを悟ったウィザードは、持っていた杖を小脇に挟んで手を差し出した。
「…どれを持っていればいいんだ」
ぶっきらぼうな言い方だが、頼みを聞いてくれることに木兎の顔がほころぶ。その後、予想以上の荷物の多さと乱雑さに青年の顔が歪むのをクレナは見逃さなかった…。
玄兎
「いやぁ、助かったよ。しかし、君、荷物整理が上手いな!」
くったくのない笑顔のビショップに付いてこられ、渋い顔のウィザードは手伝ったことをちょっと後悔した。あまりの酷さに思わず銀行整理を手伝って、挙句に説教までしてしまった。それでどう気に入られたのかはわからないが、銀行を出たあとも付いてくるのだった。
「…まだ何か用か」
彼なりにキツイ言い方にならないように気をつけつつ、はっきりを聞く。その問いに木兎は困ったような顔を見せるが、やはり照れ笑いを浮かべて答えた。
「用ってわけじゃないけど。なんか、君とは気が合いそうだからさ…」
ははっと笑う木兎に、青年の目が驚きで見開く。気に入られたようだと思っていたものの、本人の口から聞くとは思っていなかったから。それに、他人に気に入られる性格はしていないと自覚もしている。
「…玄兎だ」
ポツリと漏らされた言葉に木兎が「ゲント?」と繰り返すと、青年は「俺の名前」と短く付け加える。名前を教えてくれた、つまりは友達として認めてくれたと木兎は解釈する。そういえば自分も名乗っていなかったと思い至り、慌てて自己紹介をした。
「俺は木兎。キウサギでツクって読むんだ。珍しい名前だろ?」
嬉しそうに話す木兎を見て、玄兎は連れがいるのも悪くないかもしれないと思った。